ハト場日記

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『最後の付き人が見た 渥美清 最後の日々 「寅さん」一四年間の真実』篠原靖治

渥美清の最後の付き人が語る渥美清の思い出話。渥美清が亡くなるまで14年の間付き人を務めたそうだ。特に晩年の渥美清の姿が印象的。

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付き人といっても基本的には『男はつらいよ』の撮影現場が中心だったようだ。渥美清との関係性は兄貴と弟分、『男はつらいよ』でいうところの寅次郎と源ちゃんか、登か、ポンシュウ。あるいは満男との関係、おじさんと甥っ子といったところだったようで、著者から見た渥美清は常にかっこいい。渥美清も基本的には弱い部分を見せなかったのだろうと思う。小林信彦の『おかしな男』を思いだしながら読むとその違いが見えてきて興味深い。とはいえ、本当に最後の時期になると、少しだけ甘えることができた関係でもあったのだろう。その辺の関係性がよく見えてくる。

著者の語りもいい。おそらくあまり嘘がない人間なのだろう。生の声。倍賞千恵子の本も思い出してしまう。渥美清が愛したであろう理由が少しわかるような気がする。関係性でいうと、寅さんとポンシュウがやはり一番近いのかな。「ったく、本当にお前はしょうがないね」といいながらも、どうしても目をかけてしまうような。

渥美清と、後期にポンシュウ役で活躍した関敬六との実際の関係も興味深い。実際は関敬六が寅さんで、渥美清は御前様のような立場だったようで、なんだか笑ってしまった。

著者が目撃したという山田洋次との関係・場面も面白い。「あの人は、何食ってんのかね・・・」という話には笑ってしまうし、「米を斜めに・・・」という発想もさすがだ。いやはや、やはり渥美清という人間は発想が面白い。

でも今思えば、永六輔の言葉じゃないが、やはりどこかで誰かがタオルを投げるべきだったのだろうと思う。個人的にも満男が主役を肩代わりし始めた頃以降については、スピンオフのような感覚だし、これじゃないんだよな・・・という気はしてしまう。後知恵とはいえ、知床慕情か、寅次郎物語。あれが38と39作だから、あの頃に終われていれば(あるいは次の40作を最終作としてリリーを呼ぶなり有終の美を飾ることもできただろう)、渥美清にもあと10年近く残ることになるので、少しはゆっくりしながら、ほかの役にも(裏方に回ったとしても)挑戦できていたんじゃないかと思う。ひょっとすると、そのタオルを投げる役が、渥美清本人が病状を伝えた数少ない人間の一人であっただろう、この著者だったんじゃないかという気もする。

 

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