ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

映画『おかしな奴』|天才落語家・三遊亭歌笑の伝記映画

1963年製作。主演渥美清三田佳子南田洋子田中邦衛出演。

敗戦直後の混乱期に、日本を大いに笑わせ、そして流れ星のように世を去っていった落語家、三遊亭歌笑の人生を描いた喜劇映画。喜劇映画とはいえ、戦争の暗い影や、初恋相手の悲しい末路、そして歌笑本人の早すぎる最期もあり、全体的にどこか暗い空気が流れている。

ja.wikipedia.org

落語に疎いこともあり三遊亭歌笑(2代目)のことは知らなかったが、敗戦直後はラジオ番組でも大人気だったそうで、少年時代にファンだったという立川談笑は、歌笑の死の知らせを聞き、生まれて初めて涙を流したという。

「ヘンな顔」が売りだった歌笑。それを演じたのが渥美清ということで、見た目のインパクトという点でははまり役だったと思う。歌笑の実際の音源をYoutubeでいくつか聞いてみたが、渥美清はかなり高いレベルで再現していたように思う。語りのうまさも活きていた。

途中、歌笑の兄弟子が召集令状が届いたことに悲観し、自ら命を絶つというシーンがあった。歌笑は兄弟子の亡骸を抱きながらこう語りかける。

兄さん、人のことを笑わせるのが商売なんじゃねえか。それなのに、どうして俺のことをこんなに悲しませるんだよ。

このシーンを観ながら、どうしても先日亡くなったあの芸人さんを思わずにいられない。笑わせるのが商売の落語家・芸人。しかし、その人生が笑いに包まれているとは限らない。人知れず不安、恐れ、悲しみを抱え、ほかの人間と同じように、苦しみながら生きている。しかし、そうだと頭ではわかっていても、どうしても今回の件は自分の中で処理できない。なんだか頭が考えることを拒否しているような感覚だ。40年も生きていれば、知っている人が亡くなることもある。好きだった人を失うこともある。しかし、今回のは生まれて初めての感覚。そう感じている人も多いのではないだろうか。時間が経てば整理できるようになるのだろうか。。

最後に、本作のタイトルだが、どこかで見たことあるタイトルだと思ったら、そうそう小林信彦が書いた渥美清の評伝のタイトルが『おかしな男』だった。小林信彦は当然この映画を意識していたんだろう。

yushinlee.hatenablog.com