ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

2022-01-01から1年間の記事一覧

『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー(ハヤカワepi文庫)

ディストピア小説の源流と言われる本作。僕がSFに慣れていないだけなのかもしれないが、かなりの衝撃だった。 ここで描かれているディストピア/ユートピアとは何と恐ろしい場所なのか。そして、なぜだか現代社会の姿が透かし絵のように浮かび上がってくる。…

『石垣りん詩集』岩波文庫

詩集というものを、生まれて初めて読んだ。 詩というものは自分には難しいと思っていた。常人には想像すらできない感性。常人には理解できない表現方法。常人には想像できないほど巧みな言葉づかい。 考えてみれば、難しそうな芸術だって、プロしかわからな…

司馬遼太郎『新装版 翔ぶが如く』全10巻

今年の春頃から読み始めていた司馬遼太郎の『翔ぶが如く』全10巻、ついに読了。10冊ともなれば巨大長編ということになるが、Kindleの、しかも合本版だったので、「これを全部読んだのかー!」と目の前に全巻積み上げて、感慨深げに振り返ることができないの…

『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』ヤニス・バルファキス

資本主義ではもう駄目だとして、何か「別のやり方」が必要だとして、ではどのような社会を想像すればよいのか。「想像」というのは、今の段階では、まったく指針となる未来像がないから。ざっくりとだが、資本主義と共産主義という大枠でしか世界を考えるこ…

『愚か者同盟』ジョン・ケネディ・トゥール

ピュリツァー賞受賞の爆笑(?)労働コメディ『愚か者同盟』。社会批判も散りばめつつ、あくまでブラックコメディ。しかし最後には、これはロマンス小説だったのか、青春小説だったのかと錯覚してしまう不思議な物語。 英語圏では必読書によく挙げられ、いつ…

『みんなの寅さん from 1969』佐藤利明|「男はつらいよ」2周目完走

コロナ禍に入ってから見始めた「男はつらいよ」シリーズ。すっかりファンになってしまい、先日とうとう2周目を完走。自分のことながら、合計50作もある映画をこの短期間で2周も見てしまうんだから、少しあきれつつも、3周目はいつ始めようかと、まだまだまっ…

『『男はつらいよ』の幸福論』名越 康文

またまた飽きもせず、寅さんネタの本。 今回は精神科医による著作ということで、若干異色。名場面を振り返りながら、精神科医が車寅次郎やほかの登場人物の深層心理を探る。 寅さんはなぜあそこまで女性に対して及び腰なのか。彼は草食男子の走りだったのか…

韓国映画『サスペクト 哀しき容疑者』

韓国お得意の北朝鮮がらみのスパイ映画。主演はコン・ユ。寡黙なキャラクターがよく似合っていた。バッキバキのボディにファンは唸ったことだろう。 韓国版のボーンアイデンティティー、あるいはグラディエーターか。一瞬、グッドウィルハンティングを思い起…

『最後の付き人が見た 渥美清 最後の日々 「寅さん」一四年間の真実』篠原靖治

渥美清の最後の付き人が語る渥美清の思い出話。渥美清が亡くなるまで14年の間付き人を務めたそうだ。特に晩年の渥美清の姿が印象的。 付き人といっても基本的には『男はつらいよ』の撮影現場が中心だったようだ。渥美清との関係性は兄貴と弟分、『男はつらい…

『人間の絆』サマセット・モーム(新潮文庫)

この世に生まれて四十数年たち、人が生きることについて、自分なりにある種の答えというか、見方ができるようになった。それは自分の経験から来るもので、楽しかったことやつらかったこと、主に後者になるが、あくまで自分の半生から導き出したものだ。自分…

韓国ドラマ『ある日~真実のベール』

韓国の裁判・刑務所クライムサスペンスドラマ。 小さな過ちから大きな過ちへとつながり、殺人現場に居合わせてしまった大学生キム・ヒョンスと、彼の弁護士となり彼を弁護しながら真実を追う弁護士シン・ジュンハン。容疑者と弁護士という関係ながらも、あく…

『「日本の伝統」の正体』藤井 青銅

二礼二拍一礼というのがどうも苦手である。 神社巡りは人並み以上に好きで、国内旅行に出かければまず神社を調べる。別に信心深いというわけではなく、あくまで歴史的背景に興味があって回るのだ。しかし(神社から見ればはた迷惑なのだろうが)せっかく訪れ…

『アリエリー教授の人生相談室 行動経済学で解決する100の不合理』ダン・アリエリー

行動経済学の先生が人生に関する素朴な疑問に答えてくれるありがたい一冊。ボリュームは少なめ。著者は『予想どおりに不合理』で人気のダン・アリエリー。なんだか聞いたことのある話が多かったのは、たぶん『予想どおりに不合理』で紹介があった話だろうと…

『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』スティーヴン・ウェッブ

旅行中に見つけた思い入れのある本。この本に出会ったのは10年近く前。アメリカ旅行中に立ち寄った公立図書館で、本書の原書である『Where is Everybody?』を見かけた。面白そうだとメモし、日本に戻ったら読もうと思い、まあ当然忘れてしまっていた。そして…

『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』中川毅

気候変動と聞いて頭に浮かぶのは、環境破壊、二酸化炭素、SDGs、グレタさん、などなど。巷でも騒がれている、現在の人間の活動による今後50~100年の地球温暖化の問題である。ほぼ手遅れに近いとされている近年にやっと世界的に盛り上がってきた、あれである…

『波止場日記―労働と思索』エリック・ホッファー

ゆっくり、とにかくゆっくり、毎回数ページずつ読んだ。他人の日記を読ませてもらうのだから、それだけ丁寧に読まなければ失礼だろう。 ホッファーについては最近『大衆運動』の新訳が発売されている。今こそ読むべき本なのだろうか(常にそう言われ続けてい…

『向田邦子ベスト・エッセイ』向田 和子 編

学生の頃、たぶん夏休みだったと思う。父親の仕事の手伝いに客先にかり出されたことがあった。家では寡黙だった父。大人になった今では対等に話せるようになったが、自分が高校生の頃までは父が怖かった。中学1年の頃、英語の宿題だったかテスト用紙だったか…

元総理の銃撃と不穏な日々

安部元首相が銃撃され亡くなってから3日。やっと気持ちも落ち着いてきた。 政治的にはまったく気に入らない人物で、ことあるごとに彼の政策や言動に反発していた。しかし、まさかあのような形で最期を迎えるとは。 最初は当然政治的な意図を持ったテロの一種…

『円』劉慈欣短篇集

三体シリーズですっかりファンになってしまった中国のSF作家、劉慈欣。本書は彼の短編集。 時系列の順番に並んでいるので、劉慈欣の作風の変化なども楽しめるのだろうが、どれももれなく面白く、やはりこの人は才能の人なんだろうと再認識した。 SFと一口に…

映画『共犯者たち』

まだ記憶に新しい朴槿恵退陣とろうそく革命。先日の知床観光船の沈没でセウォル号沈没のときの記憶を揺さぶられた人も多いだろう。その後の文在寅政権も終わり、つい先日新しい大統領として尹錫悦氏が就任した。左派政権からまた保守政権へと戻ったわけだ。 …

海外ドラマ『チェルノブイリ ーCHERNOBYLー』

チェルノブイリ原子力発電所の事故を扱った実話ベースの海外ドラマ。全5回で合計5時間程度と短いが、扱っているテーマがテーマだけに重厚で、見終わった今もなんだか気分は落ち込んでいる。 warnerbros.co.jp 未だに収束が見えないロシアのウクライナ侵攻で…

芸人さんと不安障害

上島竜兵が急逝してからはや1週間。その知らせを聞いたときはまさに時が凍ったかのようだった。最初はコロナか、何か重い病気だったのかと思ったのだが、意外な最期にとにかく驚き、すぐに胃が重く感じた。数日はその調子だった。そのすぐ後にちょうど打ち込…

韓国映画『空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯〜』

韓国(朝鮮民族)の詩人、尹東柱の生涯を描いた韓国の伝記映画。2015年製作。カン・ハヌル、パク・チョンミン出演。 尹東柱の詩集を数年前に手に入れ、何度か手に取って読んではいるが、やはりまだ詩は慣れないこともあり、まだすべては読んでいない。しかし…

映画『おかしな奴』|天才落語家・三遊亭歌笑の伝記映画

1963年製作。主演渥美清。三田佳子、南田洋子、田中邦衛出演。 敗戦直後の混乱期に、日本を大いに笑わせ、そして流れ星のように世を去っていった落語家、三遊亭歌笑の人生を描いた喜劇映画。喜劇映画とはいえ、戦争の暗い影や、初恋相手の悲しい末路、そして…

『勝手に生きろ!』ブコウスキー

何年か前、ブックオカの古本市で手に取ったブコウスキーの本。 「男ならブコウスキーですよ」と声をかけられ、そのまま買った。 ブコウスキーという名前は長年知っていて、十数年前だろうか、一度は原書(たぶん本書)に挑戦して挫折していた。そりゃそうだ…

『韓国の若者 なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』安宿緑

朝鮮半島にルーツを持つ著者が韓国の若者の声を聞き、「住みにくい」と言われる韓国の現状を伝えたルポ。コロナ直前頃に取材した内容が主なので、まだ情報の鮮度も高い。短いインタビューが多いが、それでも現在の生の声が聞けるのは貴重だ。テレビで見かけ…

映画『遙かなる山の呼び声』

監督山田洋次、主演倍賞千恵子、高倉健。1980年制作。 民子三部作の最後とのことだが、リンクする作品としてはやはり『幸せの黄色いハンカチ』が最初に頭に浮かんだ。特に本作のエンディングを観ると、一瞬『幸せの黄色いハンカチ』の前日譚なのかと疑ってし…

『一汁一菜でよいという提案』土井善晴

「食べること」について考えることが多くなった。 きっかけは先日読んだ食欲に関する本。それからアナーキズムの本。自分が日々食べているもの・ことについて、自分なりに考えるきっかけになり、また食品業界に対する怒りもふつふつと沸いてきている。 そこ…

映画『殺人者』マ・ドンソク|サイコパスをどう考えればよいか

これは駄目だ。思い出すことができないよう、できれば見た記憶を消したい。そんな技術が生まれるのをただただ待つのみだが、見てしまったからには、今後何度も思い出すことになりそうだ。久しぶりに見たことを後悔する映画だった。映画作品としては成功と言…

映画『白昼堂々』渥美清・倍賞千恵子主演

『男はつらいよ』でおなじみの渥美清・倍賞千恵子が主演の映画。当初は『男はつらいよ』が始まってからその人気にあやかって作ったような作品だと思っていたが、実際は『男はつらいよ』が始まる前夜、1968年の作品で、時期的には『男はつらいよ』ドラマ版の…