ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『円』劉慈欣短篇集

三体シリーズですっかりファンになってしまった中国のSF作家、劉慈欣。本書は彼の短編集。 時系列の順番に並んでいるので、劉慈欣の作風の変化なども楽しめるのだろうが、どれももれなく面白く、やはりこの人は才能の人なんだろうと再認識した。 SFと一口に…

『勝手に生きろ!』ブコウスキー

何年か前、ブックオカの古本市で手に取ったブコウスキーの本。 「男ならブコウスキーですよ」と声をかけられ、そのまま買った。 ブコウスキーという名前は長年知っていて、十数年前だろうか、一度は原書(たぶん本書)に挑戦して挫折していた。そりゃそうだ…

『韓国の若者 なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』安宿緑

朝鮮半島にルーツを持つ著者が韓国の若者の声を聞き、「住みにくい」と言われる韓国の現状を伝えたルポ。コロナ直前頃に取材した内容が主なので、まだ情報の鮮度も高い。短いインタビューが多いが、それでも現在の生の声が聞けるのは貴重だ。テレビで見かけ…

『一汁一菜でよいという提案』土井善晴

「食べること」について考えることが多くなった。 きっかけは先日読んだ食欲に関する本。それからアナーキズムの本。自分が日々食べているもの・ことについて、自分なりに考えるきっかけになり、また食品業界に対する怒りもふつふつと沸いてきている。 そこ…

『街道をゆく 6 沖縄・先島への道』司馬遼太郎

急遽沖縄に行くことになり、道中のお供に選んだ「街道をゆく」シリーズの沖縄編。こんなときはKindleが本当に手軽でよい。 本書の行き先となったのは沖縄本島と、先島と呼ばれる石垣島を中心とする離島エリア。沖縄の(主に厳しく苦しかった)歴史を思い出し…

『戦場のコックたち』深緑 野分

戦場という日常の中で繰り広げられる探偵劇。推理小説ではあるが、まじめな戦争文学でもあった。心がほっとするエピソードも交えつつ、舞台となるのはあくまで戦場。死の影がじわりじわりとにじり寄る。物語が進むにつれ、戦争の影は濃くなっていく。安易な…

ローベンハイマー / シンプソン『科学者たちが語る食欲』|動物から学ぶ健康的な食生活のヒント

なぜ私たちはつい食べ過ぎてしまうのか。この際限のない食欲はコントロールできるのか。食欲はそもそもコントロールすべきものなのか。食欲は信用するべきでないのか。 現代社会が抱える肥満という問題。その仕組みと解決策を動物から学んでしまおう、という…

ブレイディみかこ『THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本』

ここ数年よく書店で見るようになったブレイディみかこ。そのブレイディ氏による2016年の日本取材記。現在は文庫になっていて手に入りやすい。 長らくイギリスに住んでいたブレイディ氏が、久しぶりに日本に長期滞在し、その間の取材をまとめたのが本書。 取…

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』

ああ、長かった。読み始めたのが確か去年の12月。3か月かかったことになる。夜寝る前にちびりちびりKindleで読み進めたが、これだけ時間がかかるとやはり、読んでは忘れ、の繰り返し。それでも読み終わってみれば、楽しい本だった。上下巻と大作ではあったが…

ファン・ジョンウン『ディディの傘』|もし自分にも小説を書けたとしたら

韓国の小説家ファン・ジョンウンによる短編集。「d」「何も言う必要がない」の2作品収録。 「d」 とにかく悲しい話。時代背景はセウォウル号の事故が起きた頃。あの頃の韓国社会というのはなんとも表現できない暗い時代だった。若い命が不条理な形で多数奪わ…

森元斎『もう革命しかないもんね』|革命後の世界を実践しようぜ

「もう革命しかないのか」。心の中でそうつぶやくことが近年増えてきた。傍若無人に振る舞う上層の1パーセントを見たとき。残りの99パーセントの我々が、みっともない内輪のいざこざを起こして分断を深めている姿を見たとき。意味もわからずそうつぶやく。 …

小林 佳世子『最後通牒ゲームの謎』

「最後通牒ゲーム」という心理学の実験を軸に、人間の行動とその心理を探る、ゲーム理論・進化心理学・行動経済学の入門書。 先日読んだジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか』と同分野の本で、本書でも何度か言及があった。 yushinlee.hat…

ジェフリー・ディーヴァー『エンプティー・チェア』|<リンカーン・ライム>シリーズ第三作

精神的にまた谷の期間が訪れた。何も考えたくないときには推理小説が一番。毎度のことながら松本清張を手に取りかけたが、この前リンカーン・ライムシリーズをいくつか買っていたことを思い出し、久しぶりのジェフリー・ディーヴァーを満喫した。 本作は<リ…

ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』

世界的に社会の分断が著しい。右派と左派の断絶を日常的に感じるようになったのは、単に自分が年を食ったからなのか、それとも本当に社会の断絶は深まっているのか。どうやら後者のようだ。そしてこれは日本だけの話ではない。 こういった政治的な対立の激化…

ハインライン『夏への扉』

私たち人間が進むべき理想的な社会とは何か。そのヒントのようなアイデアはSF作品で見つかるのではないかと最近ふと思い、著名な作品を読んでみようと手に取った。 その一冊目が本書『夏への扉』。アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインの代表作のよう…

中野孝次『清貧の思想』|清貧なる「はみ出し者」の社会はいかなるものか

バブル崩壊のまっただ中とも言える1992年にベストセラーとなった『清貧の思想』。この本のことを知ったのは確かこの朝日新聞の記事だった。 www.asahi.com なるほど、これは読んでおいたほうが良さそうだと買い求め、しばらく積んでいた。 その後、まったく…

トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』

元不正会計調査の"シングル"マザー。21世紀に入ったばかりのニューヨーク。911を巡る陰謀。死体。家族。ロマンス。逃亡。歪みを見せ始める資本主義社会。まだまだ記憶に生々しい911を背景とする、陰謀系探偵小説。ただし、それほど謎解きもないし、単なる探…

デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』

グレーバーの名前を知ったのはいつ頃だろうか。彼が2020年に亡くなったときに驚いた記憶があるので、恐らくこの本が発売された頃か、あるいはもっと前の、オキュパイ運動の頃か。記事レベルでは何度か読んでいて気になり、絶版になる前にと気になる本を買い…

2021年に読んだ本を振り返る

2021年も残すところあと2日。今年もコロナのおかげで読書が捗った一年だったようで、読書メーターで2021年に読んだ本をまとめてみたら、今年は合計で60冊読んでいた。基本的に読む速度はそれほど速いほうでもないし、それに加えて、人文系の時間のかかる本や…

倍賞千恵子『お兄ちゃん』

『男はつらいよ』シリーズでさくらを演じた倍賞千恵子が、渥美清との思い出を中心に語る。渥美清とはどういう人だったのか。倍賞さんからすると、寅さんが演じる愚兄とは真逆で、いつも自分の幸せを気にかけてくれる、面白い話を聞かせてくれる、相談にもち…

小林信彦『おかしな男 渥美清』|神格化されていない渥美清評伝

評論家小林信彦が渥美清の思い出をまとめた「評伝」。神格化されている渥美清を冷静に語り、ときには非常に厳しい。それゆえ信頼が置ける。 渥美清との距離感としては、何でも打ち明けられる友人ではないが、顔を見ればゆっくり話したくなる、気に入っている…

金達寿『日本の中の朝鮮文化(1)相模・武蔵・上野・房総ほか』

日本の地名に隠れている朝鮮文化の面影。そんなことを考え始めたのは数年前、北九州市に旅行に行ったとき。レンタカーに乗って福岡から門司港に向かう途中、唐戸市場という場所に寄った。到着するちょうど手前、信号で止まっていたとき、交差点の標識をぼー…

久しぶりに古本大量購入

久しぶりに古本屋さんで大量購入。 どこまで読んだか少しうろ覚えだったが、リンカーン・ライムシリーズが安かったので何冊かカゴに入れてから、何かのギアが入ってしまったようで、その後どんどんカゴへ投入。推理小説系はほとんどジェフリー・ディーヴァー…

ゴーリキー『どん底』|に・ん・げ・ん。って素晴らしい!のか?

ロシアの作家、ゴーリキーによる戯曲。先日仕事で最悪なフィードバックをもらって以来落ち込んでいる私ですが、「仕事で大失敗したときにおすすめ」といった感じでどこかのブログで紹介されていて手に取った作品。蓋を開けると(ページをめくると?)、仕事…

エラ・バーサド/スーザン・エルダキン『文学効能事典』

仕事で大失敗して、この暗く落ち込んだ精神を救うべくすがるように手に取った本書。 心身の様々な病、悩みに効能が期待される書物を紹介した本書。ほぼ海外の小説を扱っており、未翻訳のものも多いため、原書よりも取り扱っている書籍数が大きく減っているが…

チョン・セラン『フィフティ・ピープル』

ふと、この世界には人が多すぎる、と思うことがある。外を少し歩いてみるだけで、何人、何十人、場所によっては何百人の人を見かける。自分の人生、生活だけを考えるのにも精一杯なのに、この人たちにも一人ひとり、同じ大きさの世界、生活があると思うとめ…

映画『21世紀の資本』|(僕みたいに)書籍版に挫折したあなたに

トマ・ピケティ『21世紀の資本』を基にしたドキュメンタリー作品。トマ・ピケティ本人が監修、出演となっている。ほかにも、ポール・メイソン、スティグリッツ、フランシス・フクヤマなど、自分ですら名前を知っているような人も出ていた。 書籍の『21世紀の…

中条省平『カミュ伝』(インターナショナル新書)

最近出版されたばかりのカミュの評伝。 著者は100分de名著で『ペスト』を紹介した中条省平氏で、最近光文社から『ペスト』の新訳も出している。 カミュの人生を時系列に追いながら、随所で主要作品の解説が入っている。もう少しボリュームが欲しかったが、新…

中野孝次『すらすら読める徒然草』(講談社文庫)

先日読んだ『すらすら読める方丈記』に続いて、同じ著者による徒然草も読んでみた。 yushinlee.hatenablog.com こちらは全訳というわけではなく、ベストアルバムのような構成になっている。テーマごとに章立てられていて読みやすいが、著者本人も言っている…

酒井正士『邪馬台国は別府温泉だった!』(小学館新書)

「邪馬台国は別府温泉にあり」という面白い説を紹介する本書。著者はヤクルトの研究所で生命科学、生物工学分野の研究の経験を持つ酒井正士氏。古代史としてはアマチュアなのだが、邪馬台国研究者としては、いわゆる門外漢という経歴も珍しくないと思う。全…