ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

芸人さんと不安障害

上島竜兵が急逝してからはや1週間。その知らせを聞いたときはまさに時が凍ったかのようだった。最初はコロナか、何か重い病気だったのかと思ったのだが、意外な最期にとにかく驚き、すぐに胃が重く感じた。数日はその調子だった。そのすぐ後にちょうど打ち込める仕事が入り、余計なことを考える必要がなかった時期が続いてよかった。出張中の妻からもすぐに連絡が入り、落ち込んでいるのではないかと探りもあった。

これほどショックを受けたのはなぜだろう。思えば、地上波放送は旅行中以外ほぼ見ないので、上島さんの最近の活躍を知らない。最近で覚えているものといえば、Amazonプライムで配信されている『内村さまぁ〜ず』での姿くらい。とはいえ昔から好きな芸人の一人だったし、嘘がなさそうな振る舞いには好感を覚えていた。でもまあ、結局はその死に方がやはりショックだったのだろう。

少し心が落ち着いてきたところで、追悼ということでもないが、ちょうどAmazonプライムを再開していたので、『内村さまぁ〜ず』で上島竜兵が出演していた回を見直してみた。

やはり見れば笑ってしまい、笑えたことに安心した一方で、最初に見たときは気付かなかったことも今回はすごく気になった。かなり芸歴が長いことから、その老化が面白おかしく取り上げられ、「もう死んじゃうんじゃない」という、今では聞くにもつらい発言があって少し驚いたのだが、それはどうでもいい。気になったのは、上島さん本人の緊張感である。

売れた後輩芸人が久しぶりに飲みの場に現れたとき、緊張してほとんどしゃべらなかったというエピソードが紹介されていた。また後輩芸人との飲みの場を裏でモニタリングするというドッキリもあった。ドッキリとわかって、いきなり目の前にカメラが現れる。ショックからか緊張からか、上島さんの唇が震えていた。後輩芸人が「上島さんが小刻みに震えてるんですけど」と笑いにしていたが、今見ると、上島さんは何らかの不安障害を抱えていたのではないかと思う。

緊張で体が震えるというのは、僕のような重度のあがり症・社交不安障害を抱える人にはよくある症状。緊張で体が震えるというのは人間の自然な反応の一つなのだが、社交不安障害になると、普通の人にとっては何でもないような場面で過度に緊張し、震えてしまう。人前で話すときだけでなく、僕の場合は人前で文字を書くときに手が震えたり、立場が上の人と話すときや、冷たい態度の人、中途半端に知っている人と話すときに緊張し、体が震えたり、赤面したりする。特徴は、何でもないはずの場面で過度に緊張してしまうということ。上島さんは芸人であり、ドッキリにも何度もかかっているだろうし、カメラの前だって慣れているはず。ウッチャンにしてもさまーずにしても、本人からするとそれほど緊張する相手でもないだろう。上島さん本人にとっては、何でもないはずの場面だろう。そもそも、昔から面倒を見ている後輩芸人に、その人が世間的に売れたからといって緊張するのも変な話だ(不安障害を知らない人からすれば)。だが、今考えれば、その気持ちはすごくわかる。当然芸人ならではの悩みや痛みもあっただろうし、日常的に暗い気分に襲われていたのだろう。そして最後には、突発的な衝動に襲われ、ひょっとするとお酒の力もあったのか、理性がうまく働かなかったのだろうか。

芸人というのは本当につらい職業だと思う。不安障害というのは予期なく訪れるものだし、それに襲われたとしても人を笑わせなければいけない。ネタ作りがうまければ裏方に回るという手もあるだろうが、上島さんの芸風ではその道もなかったのだろうか。自分の「あるべき姿」にとらわれていたのかもしれない。

こんな想像を書き残しても仕方がないのだが、もう少し続ける。

もう一つ驚いたのは、これはうれしい意味での驚きだったが、上島さんが寅さんファンだったということ。これは完全に自分を投影してしまっている考えになるが、上島竜兵という人が寅さんに見た魅力というのは、僕自身が寅さんに見ている魅力に近いものかもしれない。「あのようにありたい・生きたい」という強い願望。それは、一般的に言われるような、年がら年中旅して回る生き方でも、さくらなど温かい家族がいるということでもない。憧れるのは、あの突き抜けるような明るさ。相手の社会的立場を完全に無視できる自由さ。それでいて、女性の前や人前で変に緊張してしまう、人間らしい弱さも見せる。人前で手が震えてしまう僕も、売れた後輩芸人相手に緊張してしまう上島さんも、そういう、底にあるものに憧れを抱いた・抱いているのではないかと思う。

結局のところ、上島竜兵がなぜ自ら命を絶ってしまったのかはわからないし、僕には知る必要も権利も無い。それは親しい人にもわからないのかもしれない。しかし、上島竜兵が人を笑わせている姿を今見直すと、以前は見えなかった不安というものが見えてくるのも確か。それでも結局大笑いしてしまうというのは、やはり彼が最上級のコメディアンであったということだろう。

ーーーー

以下に『内村さまぁ〜ず』の上島竜兵回を残しておく。