海外ドラマ『チェルノブイリ ーCHERNOBYLー』
チェルノブイリ原子力発電所の事故を扱った実話ベースの海外ドラマ。全5回で合計5時間程度と短いが、扱っているテーマがテーマだけに重厚で、見終わった今もなんだか気分は落ち込んでいる。
未だに収束が見えないロシアのウクライナ侵攻でもチェルノブイリは話題に挙がっていた。ロシア軍がチェルノブイリ原発を占拠し、その結果周辺の放射線レベルが上がったというニュースがあった。
この記事では、原発に対して破壊行為をしたというよりか、付近を戦車などで走った結果、放射性物質が含まれる土壌が空気中に巻き上がったことが原因である可能性が指摘されている。周辺に来たロシア兵も防護服などは着用しておらず、多くが被曝したと考えられているようだ。
さて、本作では、そのチェルノブイリ原子力発電所の事故の発生から、事故対応、そして真実を明かそうというその後の核物理学者や一部の閣僚による闘いを描いている。ほとんど全員が実在の人物がベースとなっていて、ノンフィクション性が非常に高い。
チェルノブイリ原子力発電所の事故は、その事故自体は当然知ってはいたが、細かいことについてはまったく無知だった。福島の原発事故のときも多く取り上げられたが、そのときですら詳しく調べようと思わなかったのを今更ながら不思議に感じてしまう。福島の情報だけでいっぱいいっぱいだったのだろう。
それにしても内容には驚かされる。ソビエト連邦の閣僚や権力者たちの態度がこれほど酷かったかどうかはわからないが(そもそも制作自体がアメリカとイギリスによるもの)、ある程度実際の姿を表していたとは想像できる。日本の「お役所仕事」とはまた次元の違う駄目さだが、実は今の日本の政治家にも共通する部分があるのかもしれないと思ったりもする。
実は第二の爆発の危険性があり、ホミュックという名の核物理学者の指摘と、レガソフ、シチェルビナらの取り組みによって何とか回避されたシーンが描かれている。ドラマを観ていると、これに気付いたのがたった1人だけだったのかと、本当に首の皮一枚で世界は救われていたのかと驚いたが、ホミュックは架空の人物で、当時レガソフを支援していた仲間の核物理学者をまとめた人格だったようだ。あのような状況でも正しいことをしようとした科学者が多くいたのだろうと、少しだけ救われた気持ちにもなった。
しかし、今更ながらだが、福島での原発事故との共通項が多くて、情けなく、暗い気持ちにさせられる。責任逃れ。ずさんさ。無計画さ。権力志向。犠牲になる地域住民。がん罹病率の上昇(日本の場合はまだ「可能性」だろうか)。チェルノブイリを経験したはずの人類が、また福島で似たような結果をもたらした。私たちはこれをずっと繰り返すのだろう。
最後に俳優陣。主人公のレガソフ役の人はよく知らなかったが、シチェルビナ役の人は『グッド・ウィル・ハンティング』のランボー教授役で覚えていた。相変わらずいい声で、本作でも抜群だったと思う。『グッド・ウィル・ハンティング』で特に好きなシーンがこれだ。品質は悪いがYoutubeで見つけた。いみじくも、この動画をアップした投稿者も「世界の映画史上最高のシーン」という名前にしている(個人的にそこまでとは思わないが・・・)。
この苦悩がすごくわかる。自分も若い頃、それなりに一つの分野で何かを成し遂げようと勉強していた時代があった。しかし、そのうちに気付く。自分よりも圧倒的に賢い奴らが存在すること。自分が凡人にすぎないこと。それは努力なんかでは埋められないものであること。おそらくその分野を知らない人から見れば、その差は大きく感じないだろうが、中途半端に知っているだけに、その圧倒的な差(多くは才能によるもの)に絶望してしまう。フィールドメダルをもらっているランボー教授ですら、そのような劣等感を感じていた。その苦悩は、僕のような本当の意味での凡人のそれをはるかに上回るものだったろう。この映画の中では基本的に「嫌なやつ」の役を演じているが、どうしてもこの役が嫌いになれないのはこのシーンがあるから。そして、ウィルのばつの悪そうな感じも抜群だった。また近いうち観よう。