ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

ブレイディみかこ『THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本』

ここ数年よく書店で見るようになったブレイディみかこ。そのブレイディ氏による2016年の日本取材記。現在は文庫になっていて手に入りやすい。

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長らくイギリスに住んでいたブレイディ氏が、久しぶりに日本に長期滞在し、その間の取材をまとめたのが本書。

取材内容も衝撃的だ。日本に住んでいながら、自分が知らなかった、見えていなかった、見えないふりをしていた現実。第一章のキャバクラユニオンの活動から一気に引き込まれた。労働者がほかの労働者の足を引っ張る。人々に力を与えてはならない。余暇の時間を余計に与えてはならない。「働けっ!」というわけだ。日本社会は本当によく作り込まれている。

「ほかにも道はある」。アナキズムに通じるこの言葉も印象的だ。先日読んだ森元斎の本でも、まったく同じ表現が使われていた気がする。そういう世界だから仕方がないという言葉は、思えば上からではなく、横方向に広がる考えだろう。みんなも我慢しているんだから。そういう業界なんだから。あんただけそんな勝手な行動許されると思ってんの。貧困の問題。ジェンダーの問題。差別の問題。すべてにつながる。無駄に「いい子」になってはしないか。ふと足を止めて、他のやり方はないのかと、真剣に問うこと。何か見えれば、実行してみること。一方方向に、何も考えず走っていればよかった時代はとうに過ぎている。いや、そもそも実際にはそれでよかった時代などなかった。

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自身がイギリスの保育士だったこともあり、日本とイギリスの保育を比較しながら切り込む章も面白い。日本でもまだ消えていない草の根運動。事業化、経済的自立をベースとする活動。中流を自称する日本の貧困層。軽快な取材記だが、相当の思考が求められる。僕個人としては、相変わらず自分の無知を知ることとなった。無知を知らせてくれるのは本当にいい本である。