ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

中野孝次『すらすら読める方丈記』(講談社文庫)

Kindleで積んでいた方丈記。読んでみたら驚くほど面白い。資本主義型金儲けに嫌気がさしてきた現代には最適かもしれない。

前知識はまったくなく、学校で習ったはずなのに、随筆ということすら忘れていた。

読んでみると、当時の災害の様子を克明に記録したノンフィクションであり、ソローの『ウォールデン』を彷彿させる住居論であり、そして鴨長明の人生論でもある。

長明の筆は、実地に身をもって体験したことしか記さないからリアリティがある。これが文学の力である。

フィクションはノンフィクションのように、ノンフィクションはフィクションのように書くべしと言われる。あくまでリアリティにこだわったからこそ、文学性が高いのだろう。

分量はそれほどないので取っつきやすい。災害の話や、シンプルに暮らす住居論など、日本に暮らす人々にとっては自然に付き合ってきた考え方ではあるが、モノ・もの・物を求める、際限ない欲望社会では反省を促す書ともなり得る。

原文と訳文が掲載されているが、Kindleでは訳文が小さくて読みにくいので、iPadとか大きなタブレットで読むか、紙の書籍がお勧めかもしれない。中野孝次氏の解説もわかりやすい。当然個人的な解釈も含まれようが、至極自然な読み方だと感じた。中野孝次については最後に経歴があったが、『清貧の思想』の著者とあって驚く。何ヶ月か前に気になった本で本棚に積んであり、そろそろ読もうかと思っていた本。パラパラと目次をめくってみたら、方丈記のこともあった。

長明は俗だからいいのである。俗のまま、それを肯定し、俗に居直り、 数奇に救いを求めた人だから、わたしは 魅 かれるのだ。

本当にそう感じる。

最後に少し引用。

常に歩き、 常に働くは、 養生なるべし。なんぞ、いたづらに休み居らん。

人に交はらざれば、 姿を恥づる悔いもなし。

心、もし安からずは、 象馬・七珍もよしなく、宮殿・楼閣も望みなし。今、さびしきすまひ、一間の庵、みづからこれを愛す。

独り調べ、独り詠じて、みづから情を養ふばかりなり。