ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

ローベンハイマー / シンプソン『科学者たちが語る食欲』|動物から学ぶ健康的な食生活のヒント

なぜ私たちはつい食べ過ぎてしまうのか。この際限のない食欲はコントロールできるのか。食欲はそもそもコントロールすべきものなのか。食欲は信用するべきでないのか。

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現代社会が抱える肥満という問題。その仕組みと解決策を動物から学んでしまおう、というのが本書。比較的コンパクトな内容だが、しっかりと根拠が記述されている。食欲というテーマの各種の実験や研究の話も面白い。何よりも健康が第一だと誰もが考えているが、まっさきに疎かにしてしまうのも健康。健康についてしっかりとした文献を読んでみたいが、どうしてもそこまで興味がわかず、時間を使いたくない。そもそもどの本も何か怪しそうだ。データや研究に基づく、そんな本がないのだろうか。そんな自分にぴったりの入門書だった。

本書によると、人間(だけでなくほとんどの生き物)はタンパク質欲に支配されている。一定のタンパク質欲が満たされるまで食べ続けてしまうのだが、現代は(コストのかかる)タンパク質が抑えられ、(コストの安い)炭水化物・脂質を多く含む加工食品が主流。そのため、同じカロリーを摂取したとしても、以前よりも炭水化物・脂質の摂取量・比率が増えてしまい、肥満がこれだけ蔓延する世界になっていると。特にたちが悪いのがファストフードが代表する超加工食品。食生活だけでなく、現代人の暮らし・社会全体が関連する問題でもある。

では、高タンパク質にするだけでいいのかというと、そうでもない。タンパク質を取り過ぎることにも弊害があり、長寿を妨げる要因とも考えられている。

ではどうすればよいのか。そう、バランスのよい、多様な食事である。工業技術により大量・安価に生産されている超加工食品を可能な限りさけ、できるだけホールフーズを、それも様々な種類のものを食べればよい。食欲も、味覚も、本来は正しいバランスの食べものを食べるためのガイドとして存在するものであり、それがうまく機能しているその他の種の動物には肥満は基本存在しない(この辺の研究内容は本当に面白かった)。最初はなるべく注意しながら、タンパク質・炭水化物・脂質のバランスを考えながら食べれば、そのうち食欲が自然にガイドしてくれるだろう、と。まあ、このへんは眉唾ではあるが、素直に頷きたくなる気持ちもある。

以上、結論としては想定通りなのだが、ぼんやりと自分の中で理由付けができたのはありがたい。そして食品業界に対する怒りも久しぶりに沸いてきた。典型的な中年太りからなかなか脱却できないでいたのがここ数年。定期的にジョギングをしても、寒い時期にはついサボってしまうし、体重も上下をゆったりと周期する程度で長年変わっていない。コロナ太りもあった。BMIはだいたい25前後を行ったり来たり。肥満とは言えないが、その入口は常に見えている。ここから一歩先に行かないといけないと思っていたが、本書がいいきっかけになりそうだ。やはり、食生活を見直さなければいけない。