ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

高木 彬光『白昼の死角』(光文社文庫)

戦後間もない混乱した日本を舞台とする推理小説。より具体的には金融推理小説、あるいは経済推理小説なのだろうか。戦後という貧しい日本だが、逆に言えばそこには大きなチャンスがあった。当然、本作で繰り広げられる詐欺に手を染める悪党どもにもうってつけの時代だった。

長編小説だが、一つのどでかい事件というわけではなく、異なる規模の詐欺が繰り返し行われる短編集としても読める。ルパンなら映画版ではなく、テレビアニメ版を集めたような感じか。

プロローグとも言える最初の詐欺は、どこかで聞いたことあるような内容。読みながら「実話ベースかな」と調べてみたら、やはりそうだった。「光クラブ事件」は昔、どんなきっかけか忘れたが、Wikipediaで読んだ記憶があった。本作では「太陽クラブ」と少しだけ名前が変わっていたり、詳細は当然脚色されているが、かなり実話に沿った内容だったと思うので、当時の事件の空気感なんかも感じられた。

ja.wikipedia.org

その後は主人公が変わり、さらにどでかい詐欺事件へと。約束手形を使った詐欺行為が中心で、今では当然通用しない内容なのだろうが、戦後ということもあって完全には整備されていなかった法律の穴をつくというのは、時代性が感じられる。

主人公を中心とする詐欺グループも英雄として描かれていない。当時は戦中派とか戦後派とかいう呼び名があったと記憶しているが、とにかく人間性が欠けたような、倫理観ゼロの集団。金持ちから金を巻き上げるという話なら気持ちよく読めるのだろうが、金策に苦労している企業から金をふんだくるということなので、まあ当時の悪党どもの雰囲気も出ていてよいのだが、あまり気持ちのよい話でもない。

松本清張を読んでいても思うが、昭和の推理小説というのはテンポがよいというか、あっさりしているというか、気がついたら一つの事件が終わっていてと、なんだか今読むと物足りなく感じる部分もあった。

とはいえ、全体として飽きずに読めたし、時代を感じる描写もチラホラあって楽しめた。