ハト場日記

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「韓国 近い昔の旅―植民地時代をたどる」神谷 丹路

神谷 丹路さんの「韓国 近い昔の旅―植民地時代をたどる」を読んだ。これは、韓国に興味のある方に全力でおすすめしたい。残念ながら絶版状態だが、Amazonではまだ中古で手に入る。図書館でも読めるはず。 

韓国 近い昔の旅―植民地時代をたどる

韓国 近い昔の旅―植民地時代をたどる

  • 作者:神谷 丹路
  • 出版社/メーカー: 凱風社
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本
 

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韓国の歴史・旅エッセイ。司馬遼太郎の「街道を行く」をイメージしてもらってもいいかもしれない。最近なら、鄭 銀淑さんが精力的に活動されているような、韓国を奥深く旅して人々とふれ合い、歴史や文化を考えて知ろう、という内容。鄭 銀淑さんも応援しているが、個人的には神谷さんの語り口がしっくりくる。単純に自分がお酒に弱いだけかもしれない(鄭 銀淑さんのエッセイにはマッコリなどお酒がテーマの内容が多いのだ)。

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神谷さんは、読者と寄り添ってくれる。一緒に悩んでくれる。韓国を旅すると、どう感じていいのかわからなくなってしまうことが多々ある。韓国の観光地を回っただけでも、日本の暗い遺産から逃げることはできない。そういったものを目にしたとき、どう感じればよいのか。日本人はどう感じる「べき」なのか。なぜこれを知らなかったのか。なぜ学校で教えてくれなかったのか。以前韓国の友人・知り合いにすごく失礼なことを言ったかも知れない。なぜ私はこれほどにも無知だったのか。何層もの罪悪感に襲われ、一種の不感状態に陥ってしまう。

そこで偉い研究者さんなら、これはこう考えるべきだ、と強く説得にかかるだろう。だが、神谷さんは読者と一緒に悩んでくれる。言葉に詰まってくれる。それは無責任なんかではなく、正直で、本物の言葉。ときには、近い昔の日本を振り返って、すごく厳しいことも書いている。それもまた嘘がなく、読み手も素直に耳を傾けることができる。もっと知りたいと思わせてくれる。
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本書は、神谷さんの旅が時系列で紹介されている。驚くのは、そのカバー範囲。日韓関係を考えたときに、トピックに挙がるであろう場所は一通り回っているようだ。ご自身の留学時の体験から、百済の扶余、日帝時代の遺跡、教科書問題、釜山の日本人街、朝鮮通信使済州島の歴史、三・一運動、独立記念館、景福宮の歴史、閔妃暗殺など。とにかく幅広い。実は先日ソウルでタプコル公園に行ってきたのも、この本のおかげ。 

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知らなかったことも多かった。例えば済州島。あの壮絶な沖縄戦の後、次は九州に上陸してたかもしれないという話は知っていたが、もう一つの候補が済州島だった。もし敗戦が遅れていれば、沖縄と同じような、住民を巻き込んだ全島玉砕の道を辿っていたかもしれないと。

また、日帝時代の話も多かったが(当然本書のメインテーマなのだが)、非常に興味深かったのが、釜山の当時の地図。知り合いに印刷してもらったものとあったが、出典はどこなんだろう。見ると、確かに釜山の地図。日本名の家の名前や、今はもうない百貨店など。今からでもこれを持って釜山に行くと楽しいに違いない。実際、神谷さんも同じ発想で、この地図を持って釜山を歩いた。そして日本風の家屋が残っていたら、ふらりと訪れるという行動力も素晴らしい。釜山はある程度回ってはいるが、自分の記憶では日本家屋は見た覚えがない。もうほぼ取り壊されたのだろうか。本書はほぼ1980年~90年頃の取材が元なので、30年以上前の話だから驚くこともないが。次回はもっと注意して見て回りたい。
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これはまた時間をおいて読み直したい。