ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『戦場のコックたち』深緑 野分

戦場という日常の中で繰り広げられる探偵劇。推理小説ではあるが、まじめな戦争文学でもあった。心がほっとするエピソードも交えつつ、舞台となるのはあくまで戦場。死の影がじわりじわりとにじり寄る。物語が進むにつれ、戦争の影は濃くなっていく。安易な比較は厳禁だろうが、今読むとどうしてもロシアのウクライナ侵攻を思わずにいられない。

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日本人作家がヨーロッパ戦線を取り上げた小説を書くいうのが珍しく、多少の疑念も抱きながら読み始めたが、至極自然に楽しめた。参考文献リストを見れば、著者がかなりの調査をもとに書き上げたこともわかる。そもそも、日本を舞台にしたとしても、実際に経験してなければ、あとは著者の調査力、想像力、表現力にかかるのだから、日本人だから外国を舞台とする小説が書けないわけがない。ただ、あまりにも自然に読めてしまい、もう少し異国の雰囲気を感じたかった気もする。また、タイトル通り、主人公は調理を担当する特技兵なのだが、料理関係の描写は期待していたほどなかった。それが戦場ということなのだろうが、そこだけは若干空振りだった。