ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

サマセット・モーム『コスモポリタンズ』

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ひょっとすると自分には(まだ)ほかの生き方があるのではないかという一種の開放感を感じた一冊。

「こんな話がありましてね・・・」で始まりそうな小噺が満載の短編集。こんなおじさんが親戚にいたら楽しいに違いない。

元は「コスモポリタン」という雑誌向けに書かれた短編を集めたもので、短編というよりかはショートショート(最後の解説には、ショートショートの「はしり」ともある)。なぜこのボリュームの記事を書くことになったのかについての事情も序文に書かれてあり面白い。

すべてトイレ休憩で読める程度の物語だが、どれも適度な納得感、読了感がある。不思議とじんわりと頭に残る。ショートショートはほかに読んだ記憶がないが、おそらくこれはモームの手腕なんだろう。

この分量であれば、読書疲れしているときにも最適。本来はどこかに出かけてリフレッシュするのが吉だろうが、そうも言ってられない昨今、読書疲れは本でも癒やせることがわかったのは大きい。

舞台も様々。本国のイギリスはもちろん、ヨーロッパの他国から聞いたことのない島国。さらには京城まで出てきて驚いた。各地の情景がほどよいスパイスとなり、まったく飽きない。

これはとくだん旅の本ではないが、旅(あるいは読書)というものが、よりよく生きるため、より自分に合った生き方を見つける上で大切だということがよくわかる。ほかの感想を見ても、旅に最適の本とある。なるほど、たしかにその通りだと思ったが、それと同時に、旅に行けないときにも手元に用意しておきたい1冊だと思う。トイレ休憩の時間があれば読める物語だけだから、いつでも安心して読み始められる。もちろん、私のようにトイレ休憩が長くなって、家族に早く出るようせっつかれることになる危険性はあるが、これは本書に限った話でもない。 

Cosmopolitans (English Edition)

Cosmopolitans (English Edition)