ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『石垣りん詩集』岩波文庫

詩集というものを、生まれて初めて読んだ。

詩というものは自分には難しいと思っていた。常人には想像すらできない感性。常人には理解できない表現方法。常人には想像できないほど巧みな言葉づかい。

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考えてみれば、難しそうな芸術だって、プロしかわからない領域があったとしても、一般庶民に楽しめないというわけではない。むしろ、芸術の本来の姿は、毎日の暮らしで精一杯の庶民にも、この世の中にはそれだけではない、もっと豊かで素晴らしい世界があるということを伝えるところにあるのだと思う。

石垣りんの詩には驚くほど自然に入り込むことができた。特に前半のものなど、今まで思っていた詩ではなく、あの戦争の後の荒廃した日本の姿であったり、貧しいながらもなんとか暮らしている庶民の姿であったり、自らを犠牲にして家族を養おうとする女性の姿だったり、政治に対する静かな怒りであったり、それが普段使いの言葉で綴られていた。変に構えていたのは何だったんだろうと不思議に思ったほど。

石垣りんが見せる静かな怒り。これは現代にも続いている。行動成長期の建築ラッシュと、「仕方がない」ものとして捨てられる労働者の姿は、まさに今ワールドカップが開催されているカタールの問題にもつづいている。

読みながら、なんだか体がぞわぞわするというか、ああ、これが感動するということなのかと、ロボットみたいなことを思った。そして、一つ一つゆっくりと味わいながら読んだ。詩を読むことの楽しさが少しわかってきた気がする。わずかな時間があれば、ふと本に目を落とし、何度も何度も読み返せる。きっとそのたびに、そのときの状況、家族との関係、仕事との関係、世界での出来事、詩はあらゆることとまじわりあい、新しい姿を見せるのだろう。

人間というのは、生きていると何が起こるのかわからない。まさか詩を純粋に楽しめる日が来るとは。