ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『愚か者同盟』ジョン・ケネディ・トゥール

ピュリツァー賞受賞の爆笑(?)労働コメディ『愚か者同盟』。社会批判も散りばめつつ、あくまでブラックコメディ。しかし最後には、これはロマンス小説だったのか、青春小説だったのかと錯覚してしまう不思議な物語。

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英語圏では必読書によく挙げられ、いつか読みたいと思っていたのだが、ながらく訳書がでなかった。コメディ要素が強いこともあり、翻訳が難しい(日本語話者には受けが悪い)ということもあったのだろう。原書も一度トライしたのだが、少し癖のある書き出しだったと記憶していて(あるいは単なる英語力不足)、そうそうとギブアップしていた。

そしてなぜか今、日本語訳が発売。Twitterで見かけたときには結構驚いたのだった。読んでみれば、今こそ読まれるべきだと感じてしまう。このタイミングでの訳書もきっとフォルトゥナ(運命)なのだろう。

主人公はイグネイシャスという名のアラサー男性。ありとあらゆる意味でひねくれていて、自己中。家族に迷惑をかけ、近所でも厄介者の引きこもり。世の中を冷笑し、あくまで自分は天才だと信じるが、社会的にはただの(それも一級品の)変人。そんな彼が、母親の自動車事故をきっかけに労働の社会に放り出されるという物語。イグネイシャスはいやいやながらも、俺様のおでましで〜い、と意気揚々と労働の世界へと歩き出す。周囲はそんな彼に振り回されるのだが、彼から放たれる「我」というオーラが不思議な風を起こし、それが竜巻のような渦を生み出す。登場人物が吸い込まれるように、最後にはまさに大団円へとつながっていく。

こんな不思議な物語をどう終えるのだろうと、一読者として、最後の数十ページは心配でならなかった。ひょっとすると悲劇的な最期を迎えるのではと恐れていたのだが、さすがはさすが。結末が見事!これほど満足できるエンディングを味わえた小説はここ数年なかったように思う。まさに、青春小説だったのか?と錯覚してしまうほど、希望と可能性を感じる素晴らしいエンディングであっぱれだった。

イグネイシャスという存在が大きすぎて、労働の馬鹿馬鹿しさであったり、そのへんが少し薄れてしまっているのが今からすると残念ではある。それにしても、イグネイシャスの態度には見習いたい部分もあり、如何に自分が社会的に不適合なのかを再確認することとなった。