ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『勝手に生きろ!』ブコウスキー

何年か前、ブックオカの古本市で手に取ったブコウスキーの本。

「男ならブコウスキーですよ」と声をかけられ、そのまま買った。

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ブコウスキーという名前は長年知っていて、十数年前だろうか、一度は原書(たぶん本書)に挑戦して挫折していた。そりゃそうだ。訳本を読んで納得した。こんなの英語でわかるわけがない。

とまあ、おそらく十数年寝かして、40過ぎてやっと一冊読んだわけだが、とにかく面白い。好きだ。たぶん、ブコウスキーが大好きだ。

この年になったから、今だからこそ楽しめたんだろうか。あるいは、フリーランスなんていう肩書きを得て、適度にだらけながら生活するようになったから響くのだろうか。

この主人公のような生活は今の日本じゃ無理なんだが、ところどころ妙に共感できる。なんだか、生き方の可能性のようなものが見える気すらしてくる。別に今からこんなに適当に生きたいというわけではない。集団を避け、仕事を憎み、酒に溺れる主人公。自分の場合、酒は飲めないが、最初の2つならわかる。それはもうすごくわかる。

主人公も最初のイメージにあったマッチョ的な人物ではない。異性に対しても、今で言う「草食系」にでも該当するだろうか。アメリカを放浪しながら、その場の流れに身を任せ、適当に暮らす。厭世的というわけでもない。プライドのようなものもある。あらゆることにやる気はない。なんとなくケロアックがこんな感じなのかと思っていたが、この世代の特徴なのだろうか。この世代をビート・ジェネレーションというらしいが、もう少し読んでみよう。

この本、どこかで読んだ雰囲気に似ているなと考えたら、オーウェルの『パリ・ロンドン放浪記』だった。雰囲気は少し似ているが、あちらはルポ。こちらはフィクション。フィクションといっても、ほとんど実体験がベースになっているだろうから、こちらもノンフィクションに近いのかもしれない。

原書のタイトルは『Factotum』。手元の辞書には「さまざまな仕事[責任]をもっている人; (主人の)一切の雑用をする人, 雑働き人」とある。何でも屋さんなんだが、仕事を渡り歩いているところからすると、今で言うフリーターか。今の世界、特に日本なんかは企業文化にすっかりと飼い慣らされているから、これだけ自由な生活も難しいだろう。ああ、オレたちはなんて「堕落」してしまったんだろうか。