ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』

グレーバーの名前を知ったのはいつ頃だろうか。彼が2020年に亡くなったときに驚いた記憶があるので、恐らくこの本が発売された頃か、あるいはもっと前の、オキュパイ運動の頃か。記事レベルでは何度か読んでいて気になり、絶版になる前にと気になる本を買い始めたのが去年。ちゃんと書籍を最後まで読むのはこれが最初。

ブルシット・ジョブなんてタイトルだから、なんとなく内容がわかりそうなもので、最初は後回しにしようと思ってたが、最近仕事で悩んでいることもあって、その「勢い」に乗って読んでしまおうと読み始めたら、ページをめくる手が止まらない。グレーバーの語り口がなんとも軽快で、所々つい笑ってしまうところも。

元は「ストライキ」紙に掲載された「ブルシット・ジョブ現象について」という短い記事。これが大きな反響を得て、読者から多くの体験談が届いた。さらにインタビューなどで掘り下げ、肉付けして書籍化したのが本書というわけだ。

自分も少し勘違いしていたブルシット・ジョブの定義(「ブルシット・ジョブ」と「シット・ジョブ」の違い)、種類、影響(あるいはその精神的暴力)、そしてなぜそのようなクソどうでもいい仕事が増えているのか、なぜ私たちはこの状況を変えられないのか、その政治的影響とは何か、変えるためにはどうすればよいのかと、議論が進む。アナーキストだと自称する彼が、渋々最後に挙げるある一つの提案。それは政策として考えるなら、という内容で、彼が実際に取り組むとなると、やはりアナーキスト的なものになっただろう。それがどんなものになったのか、本当にぼんやりとしか想像すら難しいが、その活動の可能性が絶たれてしまったのは残念でしかない。過激でアクティブ、かつ地に足が付いているというか、本当に好きなタイプの人だったと今更ながら気付いた。なぜこういう人間ほど早くして世を去ることになるのか。世の中はよくわからない。

いずれにしても、これはけっして私たちの仕事観だけの話ではない。これに抗うということは、現在の資本主義のありかたを再考するこということ。気候変動の問題や、分断化される社会、多面的に取り組む必要があるのだろう。そういう点で、自分の第一印象で感じたビジネス書的な印象は幸運なことに完全に誤りだったことがわかった。思ったよりもずいぶん多面的で、しっかりと掘り下げられていて、さらにポップで軽快な読み口。岩波から出てるんだから、ビジネス書なわけはなかったんだが。

次は『負債論』を読もう。

そういえば訳者あとがきに次回作の話があったと思い、今調べてみたら、去年の11月に原書がすでに刊行されていた。遺作となる『The Dawn of Everything』。人類の歴史を新たな視点で見直す内容のようだ。まだほかに読む本もあるし、とりあえずは日本語版を正座して待つべし。