ハト場日記

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韓国映画『女は冷たい嘘をつく』|痛い思いをするのはいつも貧乏人だ

韓国社会の暗部を描いた失踪ミステリー(?)。男性中心で、かつ外国人に対して排外的な社会。韓国でも大きな問題だが、日本にもほぼそのまま通じるテーマ(そしてなかなか改善されないのも共通している)。

痛い思いをするのはいつも貧乏人だ。やりきれないよ。もういい。テッソ・・・

- 看護師のおばちゃん

主演のオム・ジウォンとコン・ヒョジンがどちらも素晴らしい演技を見せている。素人目にも、オム・ジウォンの演技というのが凄いのはわかり、エンディング前の警察署内でのあの叫び声なんかは鳥肌が立つほど。男性キャラクターの駄目さ・だらしなさも目立ち、同性としてイライラする。これも演技・演出が優れていたからだろうと思う。

登場人物は大きく二つの集団に分けて描かれている。男性中心で、金持ち中心、排他的な社会を象徴する人々。多くの男性キャラクターのほか、コン・ヒョジンの義母、風俗店の店長など女性もいる。それに相対するのが主演の2人の女性、一部の看護師たち。そして両方に足を突っ込んでいる人物も。そう、自分だって、知らないうちに加害側になっていることだってあるのだ。完全な善人も、完全な悪人もいない。今日の加害者が、明日の被害者になることだってある。フェミニズムといっても女性だけでない。外国人の権利問題についても、外国人だけではない。社会というのは入り組んでおり、だからこそある程度の複雑性を備えた「面白い」社会ができているのだ。自分は絶対に差別者なんかじゃない。そう固く信じている人ほど、自分を疑った方がよい。

「母は強し」という表現がある。恐らく一昔前ならその言葉だけで終わっていたかもしれないが、当然この作品に秘められているのはそんなものだけでない。そんな単純化だけではだまされることもない時代。そう考えれば、少しだけでも私たちは前に進んでいるのかもしれない。程度はどうであれ。

この映画の公開は2016年とあるが、日本でも一大ブームとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』も原作は2016年。韓国には社会的にこういった作品が生まれる雰囲気があったのだろうか。世界的に「#MeToo運動」が大きくなったのは翌年の2017年なので、それよりも1年先駆けていることになる。フェミニズム運動についての個人的な無知は恥じるしかないが、隣国の韓国で先駆ける形でこういう問題が作品化されていたというのは、やはり心強く感じる(ただし、韓国ではエンターテイメント業界での女性差別問題が非常に深刻だった、そして政治的な意見を「声に出しやすい」社会だったという側面もあるとは思う)。

それにしても『女は冷たい嘘をつく』という邦題がどうもしっくりこない。原題のままだと「ミッシング:消えた女」だが、それだと欧米映画に埋もれてしまいそうで、たしかにこの邦題のほうがインパクトはある。いかにも韓国映画っぽいタイトルだ。しかし、少しミスリーディングではないか。あくまで個人的な解釈の範囲だけども、「冷たい」というのはやはりきついと思う。「女に冷たい」ならわかるが。こういった違和感込みで付けた邦題なのだろうか・・・。