ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

山田洋次のロードムービー『家族』|「古き良き」日本の姿と、そこで前を向いて一生懸命生きる人々

長崎の伊王島に住む一家族。島での暮らしを捨て、北海道の開拓村での新しい生活を目指す。「古き良き」日本をじっくりと堪能できるロードムービー。期待、失望、混乱、喪失、疲労、怒り。和解の後に再び訪れる喪失。しかし冬も永遠には続かない。春が訪れ、新しい希望、生命が生まれる。

「人に使われるのは性に合わんたい」と、島の生活に区切りを付けようとする夫の精一(井川比佐志)。今の生活がうまくいかない。自分の弱さを感じながらも、なんだかんだ自分にも周りにも言い訳をして、かすかな夢を見る。弟(前田吟)の力はそんな兄を「楽天的だ」とバッサリ(ちなみにこの兄弟は『男はつらいよ』のテレビ版の博士と映画版の博の共演となっている)。観ていて情けなく感じるシーンも多い、どこか駄目男の役なのだが、周りにも、いや自分の中にすら、こういう一面を持っている人は多いだろう。個人的にも妙に共感してしまう。

夫思いで家族思い、そして精一にはないある種の生活力や強さ、したたかさを秘めている妻、民子(倍賞千恵子)。最初は反対していた北海道移住にも、結局夫の本気度を知り、家族で付いていくことに。道中、そして到着直後に大きな悲しみに襲われるが、それでも強く生きていく。希望の姿となる。『男はつらいよ』を観ていると多くの人が抱くであろう、「さくらみたいな妹/姪/妻etcがいたら・・・」という感覚。この映画を観れば「民子のような妻/義理の娘がいたら・・・」という思いを抱く。

精一の父親として、北海道移住に付いていくことになった祖父、源蔵(笠智衆)。当初は精一たちとは途中まで一緒に移動し、広島に住む次男の力(精一の弟)と共に余生を過ごす予定だったが、着いてみればさほど歓迎されていなかったことを知らされ、結果精一たちと共に北海道へ向かう。一見、新しい生活を始める夫婦の「お荷物」にも見えそうだが、実際は精神的な柱であった。精一のように自分を失うようなことはなく、ただ静かにたたずんでいる。こういった人間の強さというのは年齢を重ねるほどわかってくるものだし、それがうまく表現されていたように思う。笠智衆といえば『男はつらいよ』の御前様なのだが、本作の祖父役でこの方の素晴らしさがわかった気がする。炭坑節のシーンは見事。

また本作には『男はつらいよ』で馴染みの役者も多数出演している。精一の弟役の前田吟、祖父役の笠智衆のほかにも、北海道までの連絡線で顔を合わせる陽気な旅人として渥美清。電車で聞き耳を立てる乗客として太宰久雄。病院の前を通りがかる女性として三崎千恵子。旅館の主人として森川信。ただこれだけ出てくると、どうも映画視聴の邪魔になってしまう。当時の映画ではあるあるだったのかもしれないが、別の映画の映像が頭に入ってくるのはよろしくない。特に、森川信がテレビで渥美清(と思われる人物)を観ていて「こいつは本当におかしいなぁ」と笑っている姿なんかは、少しやりすぎのような気がした。メタ要素というか、これもありの時代だったのかもしれない。