ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

『幸福の黄色いハンカチ』

男はつらいよ』で山田洋次作品が好きになったこともあって、いまさらながら『幸福の黄色いハンカチ』を観た。いやはや、いいじゃない。高倉健がまさに高倉健という感じ。桃井かおりは、いわゆる桃井かおりを少し抑えたような演技で、これも非常によかった。そして基本的には嫌いな部類の武田鉄矢ですら好感が持てた。

倍賞千恵子はさすが。いや、実際は山田監督が凄いのかもしれない。特に最後の、少し遠くから撮った高倉健が演じる勇作と倍賞千恵子が演じる光枝のシーン。声が出てしまった。勇作から自然に荷物を受け取る光枝。少し言葉を交わす。涙をごまかそうとするのか、上を見上げる勇作。そして堰を切ったように、腰を折って泣き崩れる光枝。その肩を抱き、静かに家へと誘う勇作。名作だというのも頷ける。

男はつらいよ』シリーズからは倍賞千恵子のほかにも、寅さんの渥美清に加えて、タコ社長こと太宰久雄、そしておばちゃんこと三崎千恵子がいい味を出していた。ここでの渥美清を観ると、寅さんとは違う人情的な雰囲気がよく出ていてよい。太宰久雄も嫌な宿屋の主人で出ていたが、嫌みな感じが実に面白かった。

しかし、やはり渥美清の声はいい。でも、いいが故に、どの役を演じても渥美清にならざるおえない。ただ声の類似性はあっても、本作ではそれほど「寅さん」ではなかった気がする。これは話し方なのか、動き方なのか、よくわからないが、これもうまさなのか。逆に、倍賞千恵子は、『男はつらいよ』のさくらとはまた声の感じが違って、別の役にひっぱられることがなかったように思う。