ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

映画『最初の人間』|カミュの自伝的映画

アルベール・カミュの自伝的小説であり、未完の遺作となった『最初の人間』の映画版。

年老いた母を訪ねて故郷であるアルジェリアを訪問した小説家コルムリ氏(カミュ)。幼少時代を思い返しながら、アルジェリアの地を歩く。アルジェリアは内戦状態が続く混乱期。元の住民であったアラブ人を支援しながら、あくまで植民地下で移住したフランス人との共存を唱える。フランスの体制を保ちたいフランス人勢力と、あくまで完全な独立を目指すアラブ人の両者からの反発を受けながら、あくまで平和的な共存を静かに訴える。アラブ人であった旧友とも再会し、彼の息子が反政府運動に加担したという罪で捕まっていることを知る。

祖母、叔父、母との関係、恩師の存在、アルジェリア内戦、非暴力と共存の訴えに対する反発など、カミュの実体験が大きくベースとなっている。

そして最後のシーンにあるフランス出身者との会話。分断とは、国と国、民族と民族、そういったものの間にはない。それぞれの内部にのみ存在するものだ。こういうことを若い頃から長く信じてきたが、それが裏付けされたようで、とてもいいシーンだった。

フランスとアルジェリアの関係、そして1950年代の混乱。日本人としては、日本と日本帝国の植民地となった国々との関係が透けて見える。もし戦争に負けていなかったら。完全な敗戦の前に和平を結べていたらどうなっていたか。カミュのような人格の人物が日本にいたら、どうしていたか。いろいろと考えてしまう。

静かな映画だが、良作だと思う。