ハト場日記

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斎藤幸平・編『未来への大分岐』第一部:マイケル・ハート

斎藤幸平との対談形式でまとめられた『未来への大分岐』(集英社新書)。

第一部はマイケル・ハートとの対談。初めて聞く名前だったが、話を聞いてみると編者の斎藤幸平と非常に親和性が高いというか、インスピレーション元にもなっているのではないかと勘ぐってしまうほど。

マイケル・ハートの有名な著作を調べるとアントニオ・ネグリとの共著である『帝国』という作品がある。ほかの作品にもある「マルチチュード」という考えが根底のようだ。

資本主義の危機と言われていることを簡単にまとめたのが第一章。

第二章では政治主義の問題を取り上げている。斎藤氏がいることで、日本の話題が盛り込まれているので、フムフムと読み進めやすい。今の自民党総裁選の報道では、政治主義の問題が見えてくるので、割とタイムリーな内容であった。マイケル・ハートルイ・ナポレオンとトランプを比較している話なんか、意表をついて面白い。共通点とされるのが「偉大な過去へのノスタルジー」だと。トランプというのは狙ってしたのではなく、自然体であれだけの人気を集めたような気がしているので、やはりある意味で時代が呼んでいたのか。

また、真逆の位置で人気を博したサンダースについても、本人のカリスマ(MHはまったくないと言い切っている)ではなく、市民側の運動との親和性が高かったという。第二のサンダースが生まれるかどうかは、そういった資質を持ったリーダーが生まれるかではなく、社会運動にかかっている、と。それを思うと、社会運動があまり活発ではない日本で、こういったリーダーが生まれないのは当然かもしれない。

第三章はコモン型民主主義の話。『人新世の資本主義』の内容に近かったように思う。

第四章では、情報テクノロジーについて語られている。コモン型、脱成長などを目指した場合、テクノロジーとの付き合い方はどうするべきなのか。この中で非物質的労働の話があり、アルゴリズムが資本に吸い取られるという話があった。これは目からうろこというか、翻訳業界で機械翻訳に吸い取られる人間の経験値のようなものも、これに該当するのではないだろうか。

第五章は貨幣とベーシックインカム。全体的にベーシックインカムに批判的な斎藤氏と、賢く活用すべきだと述べるMH。日本の状況、そして最近日本国内で聞こえてくるBIの内容を見ると、個人的には斎藤氏に同意する。日本でやった場合は、かなり踏み込んだ方法でやらないと、福祉などがばっさり切り捨てられて悲惨な状況しか見えてこない。MH氏は、もっと新しい、発展的な意味合いでBIなり貨幣なりを考えているようで、それは未来志向で結構なのだが、日本の状況ではそこまで想像できない。

全体を通して、マイケル・ハート氏の話はすこぶる面白かった。『帝国』もぜひ読んでみたい。