ハト場日記

Working, Reading, and Wondering

カレル・チャペック「いろいろな人たち」

カレル・チャペックチェコの作家。「ロボット」という言葉の生みの親だそうだ。兄のヨゼフ・チャペックも有名な画家で、本書のカバーもお兄さんの絵らしい。このヨゼフはな地図の強制収容所で亡くなっている。

これは弟のカレル・チャペックのエッセイ集。ちなみに私も次男である。

素朴な人は、ただ風邪をひく、それだけである。インテリの病気男は、気管支炎、胸膜炎炎、またはなにか他のラテン語名の病気にかかる

小気味よい言い回しが楽しい。テーマは身近な話から、少し固い政治のお話まで幅広い。

人類最大の発明に貢献したのは不器用者たちであった。この世に仕事の分業をもたらしたのは、きみたち、さげすまれたのろまたちなのだ

 ロボットという言葉の生みの親だけあって、コンピュータサイエンスの根本とも言える考えを早くも口にしていた。驚いた。

人生で原理と理想ほど重要なものはない。ただ、後生だからお願いするが、それらを政治にだけはおまかせくださるな。それらの正当な場所はまず個人の生活の中にあるのだ

政治を絡めて個人の生活のヒントも教えてくれる。世の中にはくだらない「ご意見番」がのさばっているが、チャペックの話なら聞いてみたい。

自分の仕事を汚いやり方でする人間の民族主義をわたしは信じない。なぜならどんな仕事も民族的なものなのだから。人々と汚い関係を持っている人の社会主義をわたしは信じない。なぜならどんな関係も社会主義的なものなのだから。そして、もし誰かが自分の大きな政治的理相で世界を救済し改善したいと思ったなら、まず自分自身と、自分の加わっている狭い生活範囲を救済し改善すべきだ

このあたりを読み返すと、あくまで個人の生活から始まると考えていたのだろう。世界は救えないかも知れないが、目の前の人は救えるかもしれない。それが世界の救済につながるのだろうか。なんだかどこかで聞いたことのある話でもある。

誰かが「ドイツ人は嫌いだ」と言ったなら、「ドイツ人の中で暮らしてみたらどうだ」とわたしはその人に言いたい。そしてーカ月後に、自分の家主の奥さんが嫌いかどうか、ゲルマン人の二十日大根売りの首を切ってやりたいとか、マッチを売ってくれるドイツ人のおばあさんの首を締めてやりたいなどと思っているかどうか、たずねてみたい。人間精神のもっとも非道徳的な贈り物は、一般化という贈り物である。

これはコミュニズム批判というコンテクストのようだが、現代の排他主義的世の中にも効果がありそうな言葉だ。経験を軽視し、安易な一般化でしか世の中を見ることができない経験不足な人々に送りたい。これだけ情報化が進んだ世界で、これほどのヘイトスピーチが蔓延するというのは、あまりにも皮肉である。

お兄さんのヨゼフ・チャペックのエッセイ集も平凡社から出ていたので、こちらも早速積ん読。どちらもカバーが素晴らしい。

いろいろな人たち (平凡社ライブラリー)